研究系及び研究施設の現状 103
森 田 紀 夫(助教授)
A -1)専門領域:レーザー分光学、量子エレクトロニクス
A -2)研究課題:
a)液体ヘリウム中の原子・イオンのレーザー分光 b)ヘリウム原子のレーザー冷却・トラップの研究
A -3)研究活動の概略と主な成果
a)液体ヘリウム中の原子・イオンのレーザー分光:液体ヘリウム中に置かれた原子やイオンは泡や氷球を作ってそ の中に納まっていると考えられるが,それらの原子やイオンのスペクトルを測定することによって泡や氷球の状態 さらには液体ヘリウムそのものの性質を微視的に調べることが出来る。本年は,昨年に引き続き,ヘリウム-3および ヘリウム-4両種の液体ヘリウム中におけるE u原子のスペクトルのゼロフォノン線およびフォノンサイドバンドの 圧力依存性を,固化圧力領域も含めて詳しく調べた。ヘリウム-3,ヘリウム-4ともに圧力の増加とともにスペクトル 全体が長波長側へシフトするが,ヘリウム -4 では固化圧 2.5 MPa 以上ではスペクトルはほとんど変化しなくなり, その一方で,固化圧以上でゼロフォノン線の分裂が観測される。分裂はヘリウムへの圧力のかけ方などに依存して 2種類観測されるが,これはヘリウム-4固体の多結晶の形状によるものであろうと考えられる。また,ヘリウム-4で は液相から固相への転移に際してスペクトル強度の急激な増加され,これはヘリウムが固体となることによってE u 原子が固体ヘリウム中に閉じ込められ自由に拡散できなくなるためであると考えられる。一方,ヘリウム-3ではヘ リウム-4のような強度の急激な増加やスペクトルの分裂のような急激な変化は見られない。このことから,ヘリウ ム -3では固相においてさえも E u原子の拡散が比較的自由にできているものと考えられ,固体ヘリウムのようない わゆる量子固体における特徴的な現象として興味深い。また,昨年までの実験で,ヘリウム-4超流動相および固相に おいてはフォノンサイドバンドスペクトル中に緩やかなピーク構造が現れ,しかもこのピーク構造は常流動相では 現れず超流動相で現れることからヘリウムのロトン,マクソンのスペクトルであると考えられた。今回このスペク トルの圧力依存性を測定した結果,サイドバンド中の緩やかなピークが圧力とともに低周波数側へシフトすること から,これがロトン,マクソンのスペクトルであることが確認された。一方,以前の実験で観測したMg原子に関する 追認実験も行った。その研究では励起状態においてMgHe10なるエキサイプレックスが生成されている可能性を指 摘したが,外国の研究会において反論が寄せられた。そこで今回同じスペクトルの圧力依存性を調べた結果,C aやB a では圧力を高めるに連れて発光スペクトルが大きくシフトするのに対し Mg ではほとんどシフトしないことが分 かった。これはエキサイプレックスが生成されている事の傍証となると考えられる。
b)ヘリウム原子のレーザー冷却・トラップの研究:本年は昨年までに製作した装置を用いて,液体ヘリウムでも冷却 可能な新しい準安定ヘリウム原子線源の特性を調べた。その結果,原子線源を液体窒素で冷却した場合には準安定 ヘリウム -4 原子の速度が 750 m/s であるのに対し,液体ヘリウムで冷却すると 250 m/s まで速度を低下させること が出来ることが分かった。この原子線源を用いるとレーザー冷却に要する距離を飛躍的に縮めることが出来るため, 装置全体を著しくコンパクトに出来る可能性があるとともに,原子線強度も大きく増加させることが出来ると期待 される。
104 研究系及び研究施設の現状 B -6) 受賞、表彰
森田紀夫 , 松尾学術賞 (1998).
B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員
応用物理学会量子エレクトロニクス研究会幹事 (1984-1987).
C ) 研究活動の課題と展望
液体ヘリウム中の原子・イオンのレーザー分光については,フォノンサイドバンドの観測を圧力や温度など様々なパラメーター を変えて行い,その特性を明らかにして行きたい。ヘリウム原子のレーザー冷却・トラップについては,準安定ヘリウム原子気 体におけるボーズ凝縮の実現を目指したい。さらに,ヘリウム-3とヘリウム-4の混合気体の冷却も行い,ボーズ・フェルミ両気 体の混合状態の物性なども調べたい。